パチンコ「パチンコ好きのバンドメンバーに誘われて、まさかの大勝ち──平成元年春の、人生を変えた出来事」【アニマルかつみの銀玉回顧録 Vol.005】
激動の昭和が幕を下ろし、平成という新たな時代が始まって数ヶ月。季節は春を迎えようとしていた。
時代は変わっても、自分自身のライフスタイルは、相も変わらず。大阪を拠点にしたバンド活動。それが、生活の主軸だった。
変化といえば、前年の夏。2年半ほど在籍していたバンド「W」を辞め、新たに結成された「R」というバンドに移籍した。
古典的な正統派ヘヴィメタルバンドだった前者に対し後者は、無骨で荒々しいサウンドとパフォーマンスを身上とする、いわゆるバッドボーイズ・ロックンロールバンドだった。
音楽性もコンセプトも完全に真逆。周りからは、「…え? なんでなん?」と驚かれたりもしたが、なんていうんだろう。緻密な音楽を生真面目にやってるのに疲れたというか、飽きたというか。ちょっと、変化とか刺激みたいなものを求めていたのかもしれない。
ところで、「R」のメンバーは皆、大阪のヤンチャな下町育ちで、リーダーでボーカリストのジローを筆頭に揃いも揃って大のパチンコ好き。スタジオでの練習が終わると、いつもきまって「ほな、一勝負に行こか」と誘われた。
懐に余裕もなければ、そもそもパチンコにも興味がない。そんな自分は、いつもテキトーな言い訳をして、のらりくらりと誘いから逃れていた。
そんなある日のことだった。活動開始からわずか半年あまりでオリジナルのドラマーが脱退することとなり、後任のタクさんとの顔合わせを兼ねたミーティングが行われた。
タクさんは、メジャーデビュー経験もある当時の関西メタルシーンでは、ちょっと…というか、かなり名の知れた2つ上の先輩。「ナニワのコージー・パウエル」と崇められていた、超絶パワフルドラマーだった。
とにかくドラマーとしては凄い人だったのだが、普段は物腰も柔らかく、年下で格下な我々にもけして先輩風を吹かすことはなく、ミーティングが始終和やかムードで進んだ。
「どや。たまには、付き合えや。終わったら、メシでも奢ったるから」
終了後、ジローはいつものように誘ってきた。いつもなら、「ごめん、約束があるねん」とか言って、断る場面である。
が、その日はどうしたことだろう。「しゃあないな。ちょっとだけやで」と、付き合うことになった。
たまたまバイトの給料が入ったばかりで、懐に余裕があった。それにも増して、メジャーデビュー経験のある強力な新メンバーを迎えての、今後のバンドの展開。それが楽しみで、気分がハイになっていたのだろう。
ミナミの繁華街を東西に横断する千日前の大通りに面した店に入った。週末の夕暮れ時、店内は勤め帰りのサラリーマンや、夜の街に繰り出す前の一勝負を楽しむ客たちで、大変な賑わいを見せていた。
立ちこめる熱気と紫煙にむせかえりつつも、久しぶりに足を踏み入れた「異空間」に、気持ちは高ぶった。
「ほな、わしは向こうで一発、デカいの当ててくるから。とりあえず、その辺のヒコーキ台で遊んどき」
そういうとジローやギタリストのノリオ、そして新メンバーのタクさんは、ひときわパンチの効いた客層で賑わうシマへと消えていった。あとで知ったことだが、そこはギャンブル性の高い一発台仕様のアレパチのシマだった。
自分は、ジローが指さしたあたりをうろうろし、テキトーに空き台を見つけて腰を下ろした。赤を基調としたセル板にスペースシャトルが描かれた、平和の『ファクトリー』というハネモノだった。
初当りのV入賞率は厳しいが、大当りになると役モノ左右の貯留ゾーンに装備されたマジックハンドがV入賞をサポートすることで、高継続&大量獲得が可能──。
もちろん、そんな機種の特徴はその時点では知る由もなかったが、とりあえず千円札をシマ端の両替機で100円玉に変え、年明けの呑み会でパチプロのTさんが話していたとおり、慎重にブッコミ狙いのストロークで打ち始めた。
「とりあえず、この千円が無くなったら、しれっと姿をくらますか…」
そんな風に思っていたのだが、どうしたことだろう。500円で食い付くと、その後もスランプに陥ることなく立て続けに大当りと8ラウンド完走を重ね、玉が物凄い勢いで増えていった。
そして、1時間ちょっと経った頃だろうか。「お兄ちゃん、その当りで終わりな」と、なにやら黄色いフダを手にした店員に肩を叩かれた。
人生初となる、予定終了(打ち止め)。大箱山盛りと小箱一杯の玉を流すと、いままでに手にしたこともない大量の文鎮(特殊景品)の束を渡された。それは想像していた以上にずっしりと重く、これまでに味わったことのない感覚に思わず身震いした。
「パチンコって、出たらめっちゃ楽しいやん!!」
「あかんあかん、今日はたまたまツイてただけや。調子に乗って打ったら、きっと負けるで。そっからは、泥沼や」
初めての大勝ちに興奮する自分を、もうひとりの自分がそんな風に宥めた。
交換を終えて店に戻りアレパチのシマを伺ってみると、明らかに不機嫌そうなジローたちの横顔が見えた。触らぬ神に、なんとやら。何ごともなかったかのように、家路を急いだ。
それから数日後のことだった。家の近所のコンビニに立ち寄ると、成人向け雑誌のコーナーに派手派手しく「パチンコなんちゃら」とタイトルのついた本が陳列されているのが目に入った。いままでは興味が無かったから気づかなかったのだろう。パチンコ雑誌というものが存在することを、この時に初めて知った。
立ち読みで何気なく手に取り、ページをぺらぺらとめくってみると、機種の特徴とかクギの見方、勝つための方法論なんかが、事細かに記されていた。先日、打ち止めにした『ファクトリー』のことも載っていた。
「なるほど。知るべきことを知り、やるべきことをやれば、パチンコはホントに、勝つことができるんだ」
年明けにTさんと会って以来、心の中で得体の知れない何かが、ずっと「もぞもぞ」としていた。それが、「パッカーン」と破裂して色んなものが弾け飛び出したような気がした。
それからである。横目に通り過ぎるだけだった近所のパチンコ店に、足繁く通う日々が始まったのは…。
(文=アニマルかつみ)
〈著者プロフィール〉
兵庫県尼崎市出身。1992年春にパチスロ必勝ガイドのライターとなり、以来30年にわたってメディア人の立場から業界の変遷を見つめてきた大ベテラン。ぱちんこ・パチスロの歴史に関しては誰にも負けない博識を持つ。最近ではYouTube動画チャンネル「ぱち馬鹿」のメンバーとして、各種企画の制作や出演、生配信などにも精を出している。ライター稼業のかたわら、ロックバンドのベースプレイヤーとしても活動中。愛猫家。昭和レトロ好き。
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