「ゴト師の暗躍」を目撃!? もしアノ時……思い出すと冷や汗が止まらない【ドラゴン広石『青春と思い出のパチスロと、しばしばパチンコ』第21話:スクランブル】
第21話:スクランブル
昭和58年頃、私は主に渋谷駅周辺にある複数のホールでパチンコを打っていました。今でこそ渋谷駅の周辺はエスパスグループの一人勝ちみたいな状況になってますが、当時はまだ「繁華街の小さなパチンコ屋さん」みたいなホールが多数存在しており、それぞれで客層や交換率も微妙に違って、店ごとの個性が非常に強かったように記憶しています。
当時、私が通っていたホールは8軒ですが、今回は渋谷センター街にあった白鳥というお店で遭遇した、とんでもエピソードについて紹介しましょう。
ある日の夕方、私が白鳥でスクランブルを打っていると、隣の席にスーツ姿のサラリーマン風の男性が座りました。脇に黒いカバンを下げているのを見ると、たぶんどこかの営業マンが時間潰しにフラリとパチンコ店に入ったんだろうな…と思いました。
ところが、その男性はすぐに大当りして一気に小箱に2個の出玉を出したんです。約1500個くらい。そして、すぐにヤメていきました。この店の交換率は2.5円ですから、投資が200円としても約3500円のプラスです。その時は、なかなか潔い人だなと思ったんですけどね。
「コイツ、何かやってんじゃないか?」と…
おかしいと感じたのはその翌日からでした。なんと、翌日から夕方になると毎日のようにそのスーツ姿の男性が打ちに来て、スクランブルであっという間に2箱くらい出して即ヤメしていくんです。朝から晩までパチンコ店に入り浸っている私のクズぶりは置いといて、さすがにお座り一発で2箱出してヤメていく日々が続くと変だと思います。
「コイツ、何かやってんじゃないか?」
その男性が座るのは、必ず奥から2台目です。そしていつもの時間、私が3台目に座ってそしらぬ顔で打っていると、やっぱりその男性は隣に座りました。私は男性の一挙手一投足を見逃すまいと、自分の台を打ちながら、意識を集中して横目で男性の挙動を追いました。
すると、男性はハンドルに何かをはさんで固定し、100円分の玉をサンドから出すと、台の下皿の奥に手を入れた…と思った刹那、チャッカーにも入ってないのにスクランブルが大当りしたんです。いや、いきなり「ブロロロロ~!」という大当りの効果音が流れたんだから、絶対に見間違いじゃありません。
もはや、この男性が何かやっているのは明らか。だって、こんなの絶対に変なんだもの。スクランブルで強制的に大当りを発生させる方法があるのかどうか知らないけれど、これを見過ごしちゃあダメだ!
男性は例によって2箱出すとすぐに席を立ちました。たぶん、このままジェットカウンターに流しに行くのでしょう。それで、そのことを店員さんに告げようと立ち上がった瞬間、いきなり誰かに両肩を強く押さえられて、私は無理やり座らされました。振り返ると、知らないお兄さん。
「ヤバい、あの男の仲間だ!」
もし、安っぽい正義感に任せて突っ走っていたら…
私は本能的に身の危険を感じました。おそらくあの男性はゴト師なのでしょう。そして、ゴト師が仕事をする際には必ず見張り役が居る…ということを、不幸にも当時の私は知りませんでした。つまるところ、このお兄さんが見張り役なんだろうね。
さて、どう言い訳しようか…。いろんな考えが頭を巡って青ざめた私に対し、そのお兄さんはニッコリと笑って、「何かありましたか?」と聞いてきました。もちろん、私は「何もありません」と答えるしかありません。
大声を上げれば店員さんも気付くだろうし、そうすればゴト師も見張り役もお縄になるかも知れないけれど、逃げられた場合はチクった私が待ち伏せされる可能性大。勢いで正義感に任せた行動をとっても、その結果、私が報復されてはたまりません。てゆーか、自分の身を危険に晒してまで、ゴト師の暗躍を店に報せる義理はないし…。
ヘタレと思われるかも知れませんけど、私は脱兎のごとく店から逃げました。そして、翌日からこの店には決して近づきませんでした。このあと、ゴト師の皆さんはどうなったのでしょう。さらに長い時間をかけて少しずつジワジワ抜いたのか、それとも発覚して警察に突き出されたのか?
そこらへんは私の関知するところではありませんが、事件からおよそ3年後…新風営法の規則に沿った新要件機が登場した頃におそるおそる店を覗くと、件の地下フロアにはすでにスクランブルの姿はなく、ズラリと並んだパチスロ(東京パブコの1号機アーリーバード)のシマはハイエナプロの巣窟と化してました。
後日談…というか、今回のオチ。
随分と後になって知ったことですけど、どうやら件のゴト師がやっていたのは「電子ライターゴト」だったと思われます。
今から10年くらい前に5号機の某機種で、電子ライター着火部の針金を継ぎ足してコイン投入口に垂らし、カチカチやると無限ARTになる…みたいなゴトが世間を騒がせましたが、昔の羽根モノにも下皿払い出し口の奥でカチカチやると大当りする機種があったみたいです。
スクランブルの場合は個体差が大きかったらしいのだけど、ベテランのゴト師にかかれば一瞬の出来事につき見破るのはほぼ不可能。それでも、真実を知って少しだけスッキリしましたよ。
ところで…果たしてあの時、安っぽい正義感に任せて突っ走っていたら私はどうなっていたのでしょう? 歴史に「もしも」はタブーですけど、今思い出しても冷や汗が止まらないのです。