「裏モノのデータ取り」の危険さを実感したお話…【ドラゴン広石『青春と思い出のパチスロと、しばしばパチンコ』第30話:マフィアX】
第30話 マフィアX
現在のパチスロ業界に「裏モノ」に該当するイリーガル機は存在しません。パチスロ営業の健全化を目指して業界全体が一致団結し、いわゆる「闇の商人」とか「カバン屋さん」と呼ばれた怪しい業者を締め出した結果、今では初心者やお年寄りでも安心して遊技できる環境が整いました。まさに業界の弛まぬ努力が実を結んだ結果と言えるでしょう。
しかし、ほんの二十数年前の4号機時代までは、遊技機のプログラムに穴があって容易にセキュリティを突破できたり、ごく一部のメーカーさんが自社のマシンに裏を仕込むようなケースもあって、知らないホールで遊技する際には注意が必要でした。
もちろん、プレイヤーの中には完全確率方式の純正ノーマル機が物足りず、刺激を求めて波の荒い裏モノを好んで打つ猛者もいました。確かに裏モノで上手く波に乗れば、ノーマルの比にならない勝ち金を手にすることもありますが、基本的に裏モノとは「ノーマルを置くよりホールが儲かる」から仕込むのであって、長い目で見れば確実にプレイヤーが損をする仕組みなのです。
それに、そもそも裏モノをホールが設置するのも、客が裏モノと知った上で当該機種を遊技するのも、どちらも法律違反に他なりません。なのになぜ、4号機以前の機種では裏モノが蔓延したのでしょうか?
あくまで個人的な見解ですけど、当時は裏モノを打つことに誰も罪悪感を感じていませんでしたし(私自身も含めて)、メーカー・販社・ホール・プレイヤーの良心が麻痺してたんじゃないかと思います。
さて、そんな枕を振って紹介する今回の昔話は、私が実際にホールで打った中で最も凶悪な裏モノだと感じた機種のエピソードです。
時は平成7年の11月10日。その日、私は『マフィアX』のデータ取りで神奈川県茅ヶ崎市を訪れていました。
当時の神奈川は「裏モノの聖地」と揶揄されるほどイリーガル機種が蔓延しており、しかも同じ機種に複数の裏バージョンがあったりしたため、データ取りは困難を極めました。
なぜなら、ホール側も違法だと承知の上で裏モノを設置しているわけですから、非常に警戒が強く、手帳にメモしながら実戦していてはすぐに追い出されてしまいます。なので、裏モノのデータ取りでは基本的に手帳を広げたりせず、わざわざトイレに行ってメモしたり、手帳の代わりに新聞紙に自分だけがわかるように書き込んだりしていました。
裏モノのデータ取りってこんなに危険なんだ…
ただね、問題は「私がガイドに入って3日目のデータ取り」だったってこと。ようするにライターとしての経験値が「ほぼゼロ」で迎えた実戦だったため、そうしたリスクを知らずに打ち始めてしまったんです。
今になって考えると、そんな危険度の高いデータ取りに新人を連れて行くのもどうかと思いますが、当の自分は読者時代に憧れたパチスロ必勝ガイドの実戦に参加できたことが嬉しくて、完全に舞い上がっていたみたいです。
キリの良いゲーム数を回し終えて、ここまでの小役出現率を算出しようと電卓を叩いていたら、不意に誰かに肩を叩かれました。振り返ると、そこに居たのはパンチパーマの怖そうな店員さん。
「お客さん、何やってんの?」
思わず冷たい汗が背中を伝いました。少し離れた台で打っている実戦人(裏モノのデータ取りは意図的にバラけて打つことも多い)はみんな知らんぷり。そりゃそうだ。仲間だとバレたら全員が追い出されかねないものね。
それで、開き直ってパチスロ初心者のふりを押し通したところ、パンチパーマさんは「次に妙なことをしたら出禁だからな!」と捨てセリフを残して去っていきました。いやぁ、ヤバかったなぁ。裏モノのデータ取りってこんなに危険なんだ…と、初めて理解しましたよ。
これでケチがついたのか、勝負の方はもう散々。夜8時までに5725G回して、ビッグ12回&バケ10回。本日の収支は9万円のマイナスとなりましたとさ。
ちなみに、このエピソードには後日談がありましてね。ガイドのデータ取りを行った数日後に、同じ店で「パチスロ攻略マガジン」のスタッフがマフィアXのデータ取りをしたらしいんです。
ところが、実戦を始めた途端に、スタッフ全員が追い出されたそうな。どうやら、自分が電卓でポチポチやった例の一件がお店の上層部で問題視されたらしく、店長さんから「たぶん雑誌関係者だろうから、次に変な奴らがウチの店に来たら、問答無用で追い出せ!」と指令があったみたい…という話を、後にお店の関係者から聞きました。
私のせいで店を追い出されたスロマガのスタッフさんがどなたかは存じませんが、この場を借りて約28年ぶりにお詫びしたいと思います。マフィアXのデータ取りの際にはご迷惑をかけてすいませんでした。