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僕らはあの頃、アツかった(14) 20XX年、ホールは大当たりの炎に包まれた。「北斗専門店」に舞い降りた台パン天使。

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 筆者の家の近所には直線距離が日本一長いことで知られるアーケード街があって、その沿道に、当時Tというホールがあった。一階がメガネ屋で、二階がスロ屋。少し特殊な形状のお店だった。特に甘いとか辛いとかは無かったのだが、なんとなく雰囲気が好きで、筆者は当時、よくそのT店に通ってはボコボコに負けていたものである。

ある日の事だ。新台入れ替えだろうが周年際だろうが、常に閑古鳥が寂しく鳴いてるはずのT店に、長蛇の列が出来ていた。おや? と思った。珍事である。

 Tに対して雰囲気以外は何も期待していなかった筆者は会員用の告知メールすら読んで無かったのだが、この人数は流石に不審だったので、慌ててメールをチェックした。三秒で疑問が氷解した。

「北斗の拳」である。

 そう。ホーゥ……アタッ、アタッ、ホアタァ! でお馴染み……サミーが生み出したあの超ヒット機種だ。

 当時「北斗」は社会現象と言っても良いほど流行していた。元々のスロッターはもちろん、それまでパチスロを打ったことがなかった人までをもグリグリと巻き込み、俗にいう「北斗世代」を生み出しながら、数多の人々の人生を良い意味でも悪い意味でも狂わせまくっていたのである。

 どうやらT店はその「北斗」に全て賭ける事にしたらしい。その日を境にかの店は、地域初の「北斗専門店」に生まれ変わっていたのだった。導入台数はたしか200台とかそんな感じだったように思う。なんせ専門店だ。右を見ても左を見ても北斗。まるで北斗のゲシュタルト崩壊である。のちに北斗オンリーのフロアがあるホールなんかはちょくちょくと見かけるようになったが「専門店」はなかなかのインパクトだった。これは確かにみんな並ぶ。実際その日は300人近く並んでいた。果たして座れるか不安だったが、筆者は2/3の抽選を見事突破することができた。無事入店である。そして入店して驚いた。

 北斗の代名詞とも言える「中段チェリー」が、最初から全台の左リールに止まっていた。

 仕込みである。チェリー仕込み。なんかちょっと美味しそうな響きだが、実際にそれを行うのに果たしてどれだけの労力が必要なのか。自動的にチェリーが出るまで回したり目押ししたりしてくれるマシンがあるのかどうか知らないが、あったとしてもT店は導入していないような気がする。なんせ九州の片田舎だ。素朴な街である。人海戦術に決まってる。前の晩にバイトが……あるいは店長や本部のスタッフまでもが総出で、200台の北斗に中チェを出現させたのだろう。額に汗しながら。黙々と。お客のため。オープンのため。一致団結して難局に取り組むそのさまを想像すると、二の腕がそばだつような感覚があった。全台にチェリー仕込みが終わった後の、彼らの達成感は如何ほどだっただろう。ドミノ倒しでギネスブック目指したりするのとあんまり変わらないくらいノリだったに違いない。

 すごいなぁ……と感動しながら大人しく打ち出しの時間を待っていると、4つほど離れた席に座る男が、まだ10分ほど時間があるというのにメダルを借り、あまつさえ投入口に一枚、それを入れていた。

 半袖のシャツから和彫りの入れ墨を覗かせる、オラついた若者である。彼がメダルを入れた瞬間、店内に不吉な音楽と雷の音が響いた。ラオウステージだ。

「わ、俺の台ラオウだ! ラオウだ! やった、これコーカクじゃん! コーカク中のチェリーじゃん。貰った!」

 言いながら、連れらしき金髪の若者と騒ぐ。はしゃぐ。ハイタッチまでしていた。

 隣の金髪も、和彫りに倣ってメダルを借りて自らの台に一枚投入する。ゴン太眉の革ジャンが一人で砂漠を歩いていた。

「駄目駄目それ。お前違う台にしろよ」

 和彫りの提案を受け、金髪は尻を浮かしかけたが時すでに遅し。入店から時間が経っており、他の台はすでに埋まっていた。明らかにアウトロー感が漂う若者だったが、流石にカツアゲよろしく他の台に無理やり割って入るような真似はせず、大人しく打ち出しを待つようだ。ゲラゲラと笑う和彫り。残念そうに、なんでもう少し早く気づかなかったのかと反省する金髪。雷の音。不吉な音楽。両サイドのオッサンが可愛そうだった。

 やがて時が来た。軽快なユーロビートがスピーカーから鳴り響き、打ち出し開始だ。

 筆者の台はすぐに演出がざわざわし始め、やがてジャギステージに移動したあとバトルに発展して当たった。バトルボーナスゲットである。元の状態が高低どちらだったか分からないが、当たってしまえばもはや関係ない。眉毛を応援するのみである。

 周りの台もチラホラとオスイチの当たりが見える。どうやらほんとに全台仕込んであるようだった。
T店のやる気と労力に畏敬の念をいだきながらアタアタホアタと押し順ナビに従っていると、右の方からズドンという衝撃音が聞こえた。

 びっくりして目を向けると、和彫りの若者がパネルに握り拳をブチ当てている所だった。台パンである。それから呼び出しボタンを押すと、なにやらスタッフに物言いをつけ始めた。

 おおかた、ラオウステージのチェリーなのに外れた! とか何かそんな感じでプリプリ怒っているのだろう。なんとも残念な気持ちになった。

 確かに北斗は高確率中の中段チェリーはボーナス確定だが、そもそもラオウステージ=高確率確定ではないし、高確だったとしてもその最中に転落してる事も多い。ラオウステージでチェリーを引いたからといって、必ずラオウがドラの音と共に現れるわけではないのである。一般常識レベルの話だが、和彫りの若者は知らなかったのだろう。
隣の金髪の兄ちゃんが普通に当たってるのも、彼のプライドを傷つけたのかもしれない。

スタッフさんと一分ばかり話したのち、和彫りの彼は席を立った。帰宅である。リニューアルオープンで打ち出し三分後に台パンした人を見たのも初めてなら、そのままクレーム付けて帰った人を見るのも初めてだった。

 きっと彼は北斗が大好きだったのだろう。地域で初めての専門店のオープンに、昨夜はワクワクして眠れなかったのかもしれない。そこへきてラオウステージスタートである。時代が来たと思ったはずだ。嬉しかったに違いない。だが32ゲーム回しても何も起きなかった。隣の金髪君は当たっている。裏切られたような気持ちで、カッとなったのだろう。台パンからの流れるようなクレーム帰宅である。届かない愛。叶わない想い。考えようによっては、切ない話だ。

──北斗の拳。

 あれほど悲喜こもごものドラマをホールに産み落とした台を筆者は知らない。そして筆者の胸中には、北斗に関する思い出がはちきれんばかりに溢れている。なので、次週より5週に渡り、かの名機にまつわるエピソードを集中的に記して行こうと思う。

 初代北斗がまだホールにあった頃の空気感を、少しでも感じていただければ、あるいは思い出していただければ幸いである。

【あしの】都内在住、37歳。あるときはパチスロライター。ある時は会社員。肝臓を炒めて六ヶ月の経過観察中。ブログ「5スロで稼げるか?」の中の人。

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