「本物の攻略法なのか?」と色めきだったけど…お客さんに嘘を教えてはいけません【ドラゴン広石『青春と思い出のパチスロと、しばしばパチンコ』第43話:ミラクル】
第43話 ミラクル
パチスロ歴の長いプレイヤーならすでにご承知の通り、ボーナス消化中の各役抽選に「期待値方式」が義務付けられたのは4号機からです。3号機までは限られたごく一部のマシンを除き「純増方式」が採用されていたため、前回のコラムにも書きましたが「ビッグ消化中は一服タイム」でした。
つまり、ビッグボーナスがスタートするとまず最初に2G連続で小役が揃って、次の3G目にJACゲームに突入、さらに4~8Gの間は小役が揃う…という一連の流れが予めプログラムされており、順押しフリー打ちで概ね350~360枚くらいの出玉を獲得できたんです。
しかし、4号機では通常時と同じくビッグ中も確率抽選でゲームが進行する上に、機種によっては引き込み100%の小役が1つもない…なんていう特殊なケースもあったため(クランキーコンドル等の技術介入機)、それらの機種でのフリー打ちは絶対厳禁。結果的にビッグの獲得枚数が大きくバラつくのですが、その副産物として「リプレイハズシ」という新たなゲーム性が創造され、パチスロ人気に拍車が掛かりました。
純増方式と期待値方式のどちらが一般プレイヤーに優しいか…はさておき、少なくともパチスロ人口の拡大に貢献したという意味では、後者の方がパチスロとの相性が良かったのだと私は思います。
さて、ここからが本題。今回は、3号機以前の機種で唯一の「期待値方式」を採用した、尚球社の『ミラクル』の昔語りにお付き合いください。
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期待値方式といっても、ミラクルのそれは4号機以降と意味合いが少し異なります。具体的に説明すると、4号機はボーナスインを含む全ての小役抽選を完全確率で行っていますが、ミラクルはボーナスインのゲームを振り分け抽選で決定したんです。
もちろん、小役抽選は完全確率につき稀にチェリーや8枚役も成立するのですが(大半は15枚役フラグが成立する)、3回のJACゲーム突入が保証されているため、4号機と違って「ビッグボーナスのパンク」がありません。
3回目のボーナスイン発生ゲームが抽選されるのは小役ゲームの10G目。ここでは5段階の振り分け抽選が行われ、最小の10G目が選ばれると約377.7枚の獲得となります。以下、15G目の場合は約434.5枚、20G目なら約494.3枚、25G目は約548.2枚、最大の30G目に振り分けられたなら約605枚の出玉を期待できるんです。
もちろん、振り分けは全て均等であり、出玉が多くなるほど選ばれにくくなる…な~んていうインチキはありません。全てはプレイヤーのヒキ次第。ある意味で、究極の自己責任マシンだったんですな。
ただし、ミラクルの出玉性能をフルに引き出すには「ビッグ中の目押し」が必要不可欠でした。なぜなら順押しフリー打ちで消化すると15枚役(旗)を取りこぼしちゃうから。ビッグボーナスがスタートしたら必ず「逆押しで」右リールに7絵柄を狙います(BAR絵柄と隣接しているため視認性は良い)。
このとき、目押しが正確なら右中段に7が停止して左上がりに15枚役が揃う、または下段に15枚役が揃うと同時に上段に星(ボーナスイン)が入賞します。それ以外の停止型はチェリーまたは8枚役なので、中リールで8枚役がテンパイしたら左には両方をフォローできる位置を狙いましょう。
そして、運良く30Gが選ばれたなら約600枚の出玉を獲得、めでたしめでたし…となるんですけどね。パチスロの仕組みに詳しい上級者や職業プロならともかく、パチスロ人口の大半を占める一般プレイヤーにこの消化手順は壁が高かった。
だって、「ビッグ中は一服タイム」というのがそれまでの常識であり、缶コーヒーやシガレットを片手に意気揚々と自己顕示する人が多かったから、いきなり目押ししろと言われても戸惑うだけです。
おそらくはメーカー側もそれを想定していたんでしょうね。当時のミラクル設置店では、筐体の上部にご覧のようなシールを貼って営業していました。
「この機種で初めて777が揃ったお客さまは、係員を呼んで説明を聞いて下さい。」
店員さんの手間は増えるし、機種の仕様を店員さんに(正しく)教えるメーカー営業マンの苦労は並大抵のものではなかったと思いますが(なにしろ、当時のホール店員はチンピラくずれみたいな人も多かったですから)、これを徹底しておかないとシマの割数が下がり過ぎて「出ない機種」というレッテルを貼られちゃいます。お店側にとってパチスロの新機種は高い買い物ですし、機械代を回収する前に客が飛んでは困りますからね。
ただね、中には余計なことをする店員さんもいたようで…。
私が『ミラクル』を初めて打ったのは平成5年の2月でした。すでに全国デビューから1年近くが経過した頃になって、当時私が通っていた大分市のW店に導入されたんですが、時期はずれだろうが旬を過ぎていようが、ビッグの消化手順が複雑な機種を設置して知らんぷりというわけにはいきません。
その日はW店の新装初日。ミラクルのシマには数人の店員さんがスタンバっており、誰かがビッグを引くたびに消化手順の説明に走り回っていました。
でもって、ラッキーなことに私の座った台にはいわゆるM(モーニング)が入っていたんですが、消化手順の説明にきた店員さんというのが、初めましての新人クンで(ミラクルの機種説が必要なためアルバイトの新人を何人か採用したものと思われる)、やたらとフレンドリーに話しかけてくるのはまだいいとして、ちょっと電波でも入ってるかのような勘違い少年だったんですよ。うーん…。
ビッグが始まったら、「まずは右に黒いカタマリを狙うんですよ」と言って、はいここですと肩をポンポンと叩いてくる。現在もジャグラー系のシマなどで、目押しのできないお爺ちゃん客に対して店員さんがよくやる目押し補助の手段だけど、私にはこれが鬱陶しいことこの上ない。
だけど、このお兄ちゃんも親切でやってるんだと思うと、「もう説明はいいから他のお客さんのところに行ってよ」とは言いにくく、仕方なく相槌を打っていたんですが、私が感謝しているのだと思ったのか、2回目のJACゲームが終わった時にとんでもないことを言い始めたんですよ。
「お客さん、目押しが上手いじゃない。なら、とっておきの攻略法を教えちゃうね。クレジットの下にあるデジタル(消化ゲーム数の表示)が10になったら、順押しで右下がりに旗絵柄をビタ押しするんだよ。目押しが正確なら必ず右下がりにテンパイするから、右にも旗かBARを狙って15枚役を獲得する。あとは5の倍数ゲームで同じことを繰り返すだけでいい。これで出玉が毎回必ず600枚になるんだよ」
「は?」と思いました。そんな攻略法なんて聞いたことがありません。それでも、物は試しと実践してみたら、10G目と15G目は右下がりに15枚役が揃って「すわ、本物の攻略法なのか?」と色めきだったけど、次の20G目は旗がテンパイせず敢えなくボーナスイン。
「お客さん、ビタ押しに失敗したね(笑)」
そう言いながら件の店員さんは去っていきました。
だけど、そんなことってあるのか? そもそも、ミラクルのボーナスインは10G目に抽選される上に、当該図柄(星)をかわすことなど配列上は不可能。よしんば、リール制御の特性でかわせるようになっていたとしても、そんな露骨な不具合をメーカー側がデバッグの際に気づかないわけがない。もしかして…いや、もしかしなくても、これってボーナスインの入賞時に本来得られる15枚を損しただけなのでは?
※注・ミラクルのボーナスイン時は、逆押しなら下段に旗が揃うと同時に上段に「星」が揃うけれど、順押しした場合は基本的に単独で「星」が入賞するだけです。
当時は私もまだ若かったし、人の言葉を真に受ける純情な青年でもありました。あの店員さんの言う「攻略法」が単なるガセネタだと確信するまで、ビッグ3回分の最終ボーナスインの払い出し(45枚)を欠損しちゃいました。とんでもねぇヤローだな、オイ!
そして、他のお客さんから店側に苦情があったのかどうか…その翌日、件の店員さんの姿がW店から消えてました。どこで仕入れたガセネタか知らないけど、自分で実践して楽しむのならともかく、お客さんに嘘を教えてはいけませんって。
【追記】
このエピソードは拙著『枠上人生 パチスロ生活収支帳』にも綴っていますが、そちらは文字数の関係から物語をシンプル化する目的で若干の脚色を行なってます。書こうと思えば文字数に制限なく書くことができるWEBのコラムと違い、過不足なく文字を埋めなければならない紙の雑誌は大変なのです。
まぁ、だからこそ物書きとして腕の見せ所ではあるんですけどね。ちなみに、『枠上人生』は電子書籍で配信中。パチスロの昔話を読みたい方に超オススメです。
写真はガイドワークス営業部の公式広告。左が『枠上人生 パチスロ生活収支帳』で、右は続刊の『枠上人生 パチスロ攻略稼業帳』です。どうぞよろしくお願いします。