パチンコ「魔性の名機」に魅せられたクズ……「狂気の笑い」が青春の1ページにこだまする

　ちゃんと後ろを確認したはずだと狼狽えた私は避けきれず車の側面に接触。当然、車の方も私を避けようと右にハンドルを切っていたので、本当に軽く触れた程度のコンタクトではあったが、バランスを崩した私は転倒し数メートル道路をすべるように転がっていった。

　もちろん怪我はなく、その後に連絡した警察官には「ワレ、ちゃんと後方確認したんかコラ」と詰められ、「原付と車の事故だから車のほうが悪くなるけどおのれも大概やぞコラ」とクンロク（脅しの入ったきつい説教）を入れられたこともあり、相手方には大変心配されたが、「正直すまんかった（意訳）」と謝り物損扱いで事故を処理してもらう流れとなった。

　その車の運転手が気の弱そうな良い人オーラ全開で、恐縮しきりの言動に私のほうにも悲しみが雪のように積もってきたが、さらに私のバツを悪くさせたのが、同乗者の運転手のおばあちゃんである。孫の失態を涙ながらに詫び、私の体をことさら気遣ってくれる。挙句の果てには、手にしていたカバンからお金を取り出し、「これ少ないですけどお詫びの気持ちです」と私の手に握らせようとするのである。

　大学の級友からは「人非人」「冷血漢」のあだ名を頂戴するさすがの私も「いやいや、それはいいですよ。ダメです、ダメです、受け取れません」と断固として拒否の構えを見せていたが、「そんなんじゃないから、そんなんじゃないから」とグイグイ私の手に数枚の紙幣を押し込んでくるのを止めようとしないのです。

　結局、「なんかすみません」とトカゲのおっさんパターンでお金を受け取ってしまった私だが……。

　その9千円が『お竜さん』に溶けていったのは言うまでもないだろう。ホールには『お竜さん』の狂気の笑い声が響き渡っていた。

　大クズ人間のエピソードである。

（文＝大森　町男）