「一発台の最高傑作」とまで称賛された歴史的名作…その新装で見た“地獄絵図”を振り返る【ドラゴン広石『青春と思い出のパチスロと、しばしばパチンコ』第44話:スーパーコンビ】
第44話:スーパーコンビ
その昔、巷のホールを鉄火場に変えた激アツのパチンコに、いわゆる「一発台」と呼ばれるジャンルがありました。いや、ジャンルと言うと少し語弊がありますね。なぜなら法律が定める「ぱちんこ遊技機」に一発台なるジャンルは存在せず、本来は普通機や一般電役機として開発された機種の盤面釘を強引に曲げるなどして、「特定の入賞口に1発入れば大当りとなって店側が定めた打ち止め個数まで一直線に出続ける」というゲーム性を付与した機種が「一発台」だからです。
ただね、一発台も黎明期には非常に完成度が低かったんですよ。私が初めてパチンコを遊技した昭和57年頃の一発台では、一目見て「どうやったら大当り穴に入るんだ?」と思うくらい無茶な釘調整がまかり通っていました。もちろん、入りさえすれば確実に打ち止めになるわけですから、釘が渋くなるのも仕方がない話ではあるんですけど、通常時は入賞する気がしない大当り穴を目指してひたすら玉を弾き、払い出しはたまさかに一般入賞口に入って上皿にチャリンと出てくる13個の賞球のみ。無限の資金力を持つ石油王ならこの単調なゲーム性にも堪えたかも知れませんが、はっきり言って私のような貧乏学生には面白くも何ともありませんでした。
なので、私は「大当りとパンクを繰り返しながら少しずつ出玉を増やしていくゲーム性」の普通機調整を好んで打ってたんです。当時の一発台は、パンク穴を完全に潰すことで完全な一発台として機能しましたが、地域によってはパンク穴にも適度に入る調整を施す店も少なくなかったのよ。そこら辺はお店側の考え方次第ですが、同じ機種でも一発台調整と普通機調整では釘の差が歴然。たとえば、私がよく打っていた西陣の『エレックスサンダーバード』は、天横の入賞口とカイザーチューリップへの入賞を完全に潰すことで一発台に化けたんですけど、その場合に唯一の大当り発生ルートとなる天横窓のジャンプ釘が真下に曲げられてました。それでも、何かのはずみで玉が奇跡的な動きをすれば、ちゃんと大当りするんですよね。私は一発台仕様のエレックスサンダーバードで大当りしたことは一度しかありませんが、天横の小窓に玉が飛び込んだ瞬間は心臓が止まるくらい驚いたもの。その昔、初代フィーバーで大当りしたお爺ちゃんが、心臓麻痺を起こして救急車で運ばれた…なんていう噂話を聞いたことがありますが、もしかすると一発台にも似たような逸話があったかも知れませんね、ええ。
でまぁ、あまりにも投資速度が早い一発台を私は大の苦手にしていたのですが、昭和61年頃になって一発台のゲーム性に革命が起きます。史上初のコンビゲージと三ツ穴クルーンを搭載し、後の世で「一発台の最高傑作」とまで称賛されたその機種の名は…。
そう、三共さんの名機『スーパーコンビ』です。本機には後にリメイクされた「スーパーコンビⅡ」というタイトルもありますが(ゲーム性は完全に同じ。異なるのはセル盤の絵柄と大当り時に開くチューリップが緑に変更されたことのみ)、とにかくスーパーコンビの登場は一発台の革命でした。なにしろ、旧タイプの完全一発台は打ち出した玉が大当り入賞口に飛び込むのをひたすら待つのみ。しかも大当りするのはほんの一瞬の出来事ですから、ドキドキ感も手に汗握る瞬間もありません。だけど、スーパーコンビはクルーンで玉が回っている数秒間はすげぇアツいんです。この瞬間を楽しむことがスーパーコンビの醍醐味だと断言して差し支えありません。
私が初めて見たスーパーコンビの新装は地獄絵図でした
事実、スーパーコンビ以降の一発台はクルーン搭載機が激増し、大当り発生までのプロセスを楽しめるようになりました。これぞまさにルネッサ~ンス!
ただね、私が初めて見たスーパーコンビの新装は地獄絵図でした。時は昭和61年、場所は渋谷の某店です。
この日、私はスーパーコンビを打つために午後3時から並んだのですが(新装初日につき午後5時開店)、開店と同時に一見してプロとわかる集団がスーパーコンビの全台を押さえたんです。当時の新装は、お行儀の良い整列入場なんかじゃありません。押し合いへし合い、横入り追い抜きなんでもあり。先頭でスーパーコンビのシマに辿り着いた兄ちゃんが全台に百円ライターを置きやがったせいで、普段から負けている常連客は私も含めて一人も座れませんでした。
それはまぁ良い。いや、良くはないけど仕方がありません。だって、そういうものだと受け入れるしかない時代でしたからね。だけど、この連中のお行儀の悪さは私の想定を遥かに超えていました。クルーンに玉が飛び込むと、台を引っ張るわ上皿を押し下げるわ…。連中が何をやっているかわかりますよね。ようするに、どうにかして手前の大当り穴にねじ込もうとあれこれ工夫してるんですよ。今だったら振動検知システムが大音量のアラートを鳴り響かせるところですが、当時にそんなセキュリティはありません。というか、店員さんも見て見ぬふりをしています。
そうこうしている内に、今度はシマの中ほどで打っていたリーダー格っぽいプロが、大当りもしていないのに右打ちを始めました。不思議に思って見ていると、大当りチューリップが開いてないのに玉が右下の入賞口に流れているじゃないですか。どうやらこの台は、開店釘を叩いた釘師の調整ミスで(正確には開店釘を叩くのはメーカー営業マン)、大当りせずとも玉の道ができてるみたいです。もちろん、出玉の速度は遅いけど、少しずつ、でも確実に出玉が増えていきます。
私はこの状況を階段の踊り場で見ていたのですが、さすがに奥から店長さんが出てきて例のリーダー格っぽいプロと話し始めました。そして、どうやら穏便に話はついたようで、リーダーが配下に声をかけると全員が撤収しました。もちろん、大当り中の台もあったわけですが、全員が台を放棄してシマから居なくなったんです。おそらく、彼らに相応の金銭を握らせてお引き取り頂いたんじゃないでしょうかね。
何はともあれ、連中が居なくなったのなら一般客に開放されるかな? そう思ったんですけど…甘かった。白服の店長さんは部下に指示してスーパーコンビ全台の電源を落とし、そのままシマ封鎖みたいな感じにしちゃったのよね。まぁ、そりゃそうか。大当り中の台はチューリップを閉めればいいけど、右打ちするだけで玉が増える調整ミスが何台あるかわからない以上、新装を仕切り直すのが無難ってものですから。
ただ、店側の対応に腹を立てた何人かの常連さんが店長に詰め寄って…。私はこれ以上の地獄絵図を見たくなくて撤退しましたが、おそらく一悶着あったことでしょう。当時、一発台の新装は店にとっても客にとっても一大イベントだったけど、各地で似たようなトラブルが起きてたんじゃないかと思います。
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