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「おめでたい」と祝う気持ちの裏で…少しだけブルーな気分に【ドラゴン広石『青春と思い出のパチスロと、しばしばパチンコ』第56話:阪神タイガース日本一】

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第56話 阪神タイガース日本一

 このコラムは11月5日の夜に書いています。本日、京セラドーム大阪で行われた「SMBC日本シリーズ2023」の第7戦で、阪神タイガースがオリックスバファローズを7-1で下して、38年ぶりの日本一となりました。

 私は阪神ファンではありませんが、今年の阪神の圧倒的な強さは間違いなく本物だったと思います。なので日本のプロ野球を愛する一ファンとして、心からお祝いの言葉を述べさせて頂きます。阪神ファンの皆さん、おめでとうございます!

 ところで、プロ野球の歴史を振り返ってみると、意外なことにタイガースが日本一になるのは今回が2回目なんですね。でもって、最初の日本一に輝いた1985年は、パチスロ業界で記念すべき「1号機」がデビューした年でした。そんなわけで。今回のコラムではタイガースが初めて日本一になった時の個人エピソードを振り返ってみたいと思います。

以下、本編。

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 時は昭和60年11月2日。この日、私は水道橋にある某パチンコ店で「フィーバー10スペシャル」というデジパチを打っていました。

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三共の1300発機『フィーバー10スペシャル』。昭和60年に施行された新風営法に適合したデジパチの第1号機で、ヘソまたは両肩のスタートチャッカーに入賞すると中央のドラムが回転する。その後、ドラムに「7図柄」または「BAR図柄」が揃えば大当りとなって、10カウント・10ラウンド継続・13個賞球で約1300個の出玉を獲得できた。諸説あるが大当り確率は200分の1だと言われている。(写真は「パチンコ歴史辞典/ガイドワークス刊」より)

 私が知る限り、当時は水道橋駅の付近にパチンコ店が5軒ほどあったのですが、どの店も例外なく店内にテレビを置いてました。基本的に流しているのは競馬中継。やっぱり土地柄だなぁ…っていうか、水道橋には場外馬券売り場があるので、競馬開催日には赤鉛筆を耳にはさんだ胡散臭いおっちゃんたちが、競馬新聞を片手にテレビを観戦しながらパチンコを打ってたんですよ。

 しかし、この日は少し様子が違いました。パチンコを打ってるお客さんの多くは競馬新聞など持っておらず、どうやらテレビ中継されている野球の試合が気になっている様子。そうか、今日は埼玉の西武所沢球場で「西武-阪神」の日本シリーズ第6戦が行われているんだった。ここまでの戦績は阪神から見て3勝2敗で、阪神が日本一に王手をかけている状況です。前述したように私は阪神ファンではありませんが、今日の試合結果次第で第7戦を待たずして優勝が決まるとなると、プロ野球好きとしてはやっぱり気になります。

 しかし、私が打っている「フィーバー10スペシャル」のシマは画角が悪く、テレビを非常に見づらい配置になってたんですよ。えーい、仕方がない。そこそこ調子良く当ってる台だけど、日本シリーズの行方が気になるから、テレビを見やすいシマに移動しよう!

 ちなみに、当時のデジパチは1回交換(大当り終了時に全ての出玉を流すルール)が主流だったため、優秀台か否かを判断する際に「千円でXX回転」というような言い方はしません。パチプロは皆、「時間あたり現金をいくら使うか」で釘の優劣を判断してました。

 この場合、投資額が少ないほど台の能力が優秀ということになります。基本的な考え方は後に石橋達也氏(ガイドやマガジンを渡り歩いた有名な誌上プロ)が提唱した「ボーダー理論」と同じですが、持ち玉遊技を考慮しないぶん計算が楽だったと聞きます。

 いや、当時の私は素人の学生パチンカーですから、そんな高尚な理論なんて知る由もありません。後に知り合ったパチプロに理屈を教えられ、とりあえず「時間あたり3千円」で回せる台を探して立ち回ったのですが、それはずっとずっと先の話です。

 話が本題から逸れたので戻します。

 どこかにテレビを観戦しやすいシマはないかと店中をチェックした私は、2階フロアに全く客が居ないことに気づきました。ああ、この店はパチスロを2階に設置してるんだね。あの特徴的な右レバーは北電子の『キャスター』だ。とりあえず、この台を打ちながら日本シリーズを観戦しよう。

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北電子の1号機『キャスター』。ビッグボーナス絵柄は「ダイヤマーク」、他機種でビッグ絵柄になっていることの多い「777揃い」はREGという変わり種だった。ボーナス抽選は当時としては一般的な「吸い込み方式」。明確な小役周期を有しており通常時は常に一定の割合でコインを消費するが、ボーナスフラグが成立すると「当倍返し処理」に移行して小役周期が乱れる。これがボーナス察知手段のメインだった。(写真は「パチスロ大図鑑1964〜2000/ガイドワークス刊」より)

 そう考えて適当な台に腰を下ろして打ち始めたところ、よくわからない内にダイヤマークが揃っちゃいました。ラッキー…って感じでビッグボーナスを消化して呼び出しボタンを押すと(1号機はビッグ終了後に店員さんを呼んでリセットして貰う必要がある)、「1回交換だから出玉はぜんぶ流してね」とのこと。そして、私がジェットカウンターに出玉を流したのを見届けてから、店員さんが扉を開けて台をリセットしてくれました。
「おめでたい」と祝う気持ちの裏で…少しだけブルーな気分に【ドラゴン広石『青春と思い出のパチスロと、しばしばパチンコ』第56話:阪神タイガース日本一】の画像4 果たして高設定だったのかどうか…わりと短時間で計3回のビッグボーナスを引き、レシート3枚でトータル1100枚くらいのコインを獲得したんです。総投資は1万円くらいかかったけど、これってそれなりに勝ったんじゃね?

 私がキャスターを夢中で打っている間にも日本シリーズ第6戦の試合は進み、最終的に阪神が西武を9-3で下して日本一となりました。そして、吉田義男監督(当時)の胴上げを見届けた私は、地下の景品カウンターに行って特殊景品に交換したんですけどね。カウンター嬢から渡されたブツはなんと1万1千円分しかありません。

 いやいや、さすがにこの景品の数はおかしいでしょ? そう抗議した私に、昔のお嬢さんは義務的にしれっと言いました。

「10枚交換です」

 もうね、正直言って目の前が真っ暗になりましたよ。少なくとも5千円くらいは勝ったと思っていたのが(7枚交換と仮定)、わずか千円勝ちにランクダウン。貧乏学生にとって差額の4千円は大金なわけで、しばらくは気分的に立ち直れませんでした。

 そうか、だからこんなにパチスロの客付きが悪かったのか…。

 当時、この某店はパチンコの交換率が2.8円でした。つまり、デジパチの1300発機であれば1回交換で約3600円。それに対して1号機は、ビッグの出玉が360枚で10枚交換なら同じく約3600円。ようするに、デジパチとパチスロの大当りの価値を均等にしようとしたんだと思います。当時はまだホールも試行錯誤していたから、こんな無茶な交換率にしちゃったんでしょうね。

 先ほどから日本シリーズの結果を伝える店内アナウンスが流れています。

「ライオンズは負けてしまいましたが、当店のレッドライオンは絶好調。さぁ皆様、張り切ってじゃんじゃんバリバリお出しください!」

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西陣の新要件羽根物『レッドライオン』。オトシまたはヘソチャッカーに入賞すると表示された回数だけ翼が開閉し、役物下段中央のVゾーンに入賞すれば大当りとなる(最大継続は8ラウンド&9カウント付き)。同時期にデビューした平和の「エアプレーン」と人気を二分したが、何度もリメイクされた「レッドライオン」の方が息は長かった。(写真は「パチンコ歴史辞典/ガイドワークス刊」より)

 うんうん、そうだね。みんな頑張ってレッドライオンを打ち止めしてね。てゆーか、マイクを入れてる店員さんは西武ファンなのかしら? この時のアナウンスは今も鮮明に覚えています。そして、肩を落として店を出る私の、その日の収支は「プラス100円」でした(フィーバー10スペシャルの負け額も含む)。

 あれから38年が経過…。今夜、阪神タイガースが日本一になり、おめでたいと祝う気持ちの裏で、10枚1回交換のキャスターを思い出して、ほんの少しだけブルーな気分になりました。

 おしまい。

ドラゴン広石

ドラゴン広石

ドラゴン広石(昭和38年12月生まれ)
平成7年に白夜書房「パチンコ必勝ガイド」編集部の門を叩き、パチスロの知識と経験、目押し力を買われて「パチスロ必勝ガイド」のライターに採用された。リアルタイムで「パチスロ0号機」を遊技した経験を持つ、唯一のパチスロライターである。令和4年現在でライター歴は27年。代表作に「枠上人生」、「浮草家計簿」(連載中)、「回胴絶景」(連載中)など。1日の最大勝ち額~プラス41万3千円(クラブロデオT)、1日の最大負け額~マイナス12万9千円(初代・北斗の拳)。

Twitter:@dragon_hiroishi

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