ぼくらはあの頃、アツかった(2) いつもホールで食べていた『天ぷらうどん』の味が今でも舌に残っている
まだパチスロを打ち始めて間もないルーキー時代の話である。当時筆者はロデオの『ガメラ』を軸に近隣の店舗をルーチンワークの如く巡っては勝ったり負けたりしていたのだが、お気に入りの場所の一つにD店というホールがあった。
D店。良い意味でも悪い意味でも、昔ながらのホールだった。曰く、毎週火曜日はHANABIの日だとか。あるいは毎週水曜日は海の日であるとか。さらに日曜日はお祭りサンデーとか。要するにほぼ毎日なにかしらのイベントを打ってはガセり、近隣のパチンカーやスロッターに辛酸を舐めさす、狼少年のようなホールだったのである。
そんなD店には三ヶ月に一度だけ開催されるイベントがあった。名前は『ビッグナイン』とかそんな感じだった気がするが、要するに9の付く日に行われる四半期祭みたいな感じだ。開催日が近づくと店内の至るところにポップが貼られ、当時黎明期であったインターネット上の公式ホームページでは『管理人』を名乗る(おそらくは)店長が、『前回はご期待に添えず申し訳ございませんでした! お詫びの意味を込めて、今回は予算をバッチリ確保しましたよ! なので全台サメさん以上で行かせて貰います(爆)』とかなんかそんな感じでめちゃくちゃ煽ってたのが懐かしく思い出される。
幾らなんでもこれは鉄板だろうと思って出撃するも、毎度ガセる。むしろ普段以上に鬼気迫る勢いで締めていた気さえする。何日も前からチラシを打ち、ポップも貼りまくり、ネット上で設定をチラつかせて居たのにも関わらずである。
そして三ヶ月後にまたいけしゃあしゃあと『前回はご期待に添えず申し訳ございませんでした! お詫びの意味を込めて、今回は──』とか煽るのだ。とんだウルフボーイである。そして筆者はそのコンボを3連続は喰らったように記憶している。今となっては笑い話だが、当時貧乏学生だった筆者にとしては全く笑えず、本気で「この店、誰か爆破してくれないかな」とか思っていたものだった。
さて、そんなD店には一つだけ美点があった。
併設されていた軽食屋の「天ぷらうどん」が、とても美味しかったのである。
名も知らぬキミへ
筆者はその日もD店で朝から打ってボコボコにされていた。
まだ午後も早い段階でいよいよお金がなくなり、文字通り精も根も尽き果て──天ぷらうどんを啜っていたのである。そして、筆者の隣にはMさんという知り合いがいて、同じく天ぷらうどんを食べていた。
MさんはD店の常連である。筆者よりも少しだけ年上で、恐らく25とかその辺だったのではないだろうか。ちなみにMさんというのは今しがた筆者が付けた仮名である。由来はそのM字にハゲ始めていた額からだが、いちいち仮名を付けたのは他でもない、単純に筆者が彼のちゃんとした名前を知らないからである。
Mさんとはホールで偶然出会い、いつのまにやら言葉を交わす間柄になり、そうしてこうやって並んで天ぷらうどんを啜るまでになっていた。
全然でないね。天ぷらを頬張りながら、Mさんが言った。ホントにダメっすねこの店。と筆者は答えた。毎度の話である。そして食べ終わってレジへ向かう。財布を取り出す筆者の動きを手で制し、Mさんが二人分の料金を払う。筆者は会釈して「ごちそうさまです」と言う。
──これも、毎度の話だった。
勝っていても、負けていても、Mさんは二人分の天ぷらうどんの料金を必ず払い続けてくれていた。それを見て、筆者は「大人ってカッコいいな」と思ったものだった。