ぼくらはあの頃、アツかった(12) 青春。ゴルゴ。バレンタイン。爆裂AT時代、隣の席にあの子がいた。
向こうに名前を呼ばれてようやくわかった。筆者は中学2年の頃、この子に告白されたことがある。バレンタインの日に友達の西くんと帰っている所を後ろから呼び止められてチョコを貰ったのだ。そして彼女居ますか? と聞かれて、とっさに「居る」と答えたのである。そんなの居なかったけど、怖かったのだ。短く二三言葉を交わしてから、逃げるようにその場を去り、家に帰ってから、その無駄に高級そうなチョコを、祖母と一緒に食べた。
当時筆者は少年であった。あらゆるものに臆病で、世間というものに対して警戒心をもって接していたのである。
「ああ、どうも。君は──。懐かしいね」
筆者は彼女の名前を覚えていなかった。聞いたかどうかも怪しい。中学時代彼女はヤンキーだった。アクリルボードのように薄いカバン。パンツ見えそうなほど短いスカート。そして茶髪。隣で打ってる彼女はそれをそのまま大きくしたような、一言で言えばキャバい女の子であった。
黙々とゴルゴを打つ。なんとなくケツがむず痒い。落ち着かない気分で粘っていると、筆者の台に当たりが来た。ゴルゴチャンスである。うし、と小さく声を出して、下皿のメダルを一枚、灰皿の横においた。
ATの消化を終え、前兆を経てもう一発。頷いてもう一枚。灰皿の横のメダルに重ねる。
「それ、何やってるんですか」
「ゴルチャン数えてるんだ。忘れちゃうから」
「ああ、なるほど──」
それをきっかけに、少し話しながら打った。どうやら彼女はパチスロを打ち始めてまだ日が浅いらしい。筆者も当時でまだ二年目のルーキーだったが、彼女よりはセンパイだ。
それに思い立って、今も昔も当時のまま、何もかもが、彼女より一つだけ年上のセンパイである事に気づいて変な気持ちになった。
やがて筆者の台の連チャンが終わった。灰皿の横のメダルは「5枚」だった。メダルをすっかり飲ませ、幾ばくか追銭をぶち込んでから、辞める事にした。帰る、というと、彼女は小さく頷いて、筆者の二の腕あたりをポンポンと叩いた。ありがとうございます。最後に彼女が言った言葉だ。なんに対する「ありがとう」なのか良く分からなかったが、店を出てマクドナルドでチーズバーガーを食べながら色々考えていると、一つだけハッキリした。筆者はあの時、ホワイトデーのお返しをしていない。中学女子が買うにはちょっと高すぎる気がするチョコ。当時は甘いものがあんまり好きじゃなかったので八割は祖母が食べたが、たしかに美味しかった。お返しをしなければならない。ホールに戻りながら誘い文句を考えた。散々頭を捏ねくり回して出てきたセリフは「カニ行かない?」だった。悪くない。
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