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ぼくらはあの頃、アツかった(20)小役カウンターの悲劇。初代エヴァンゲリオンのシマで見られたボーナスとベル率のドラマ。

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 ビスティが生み出した『パチスロ新世紀エヴァンゲリオン』。五号機の到来を戦々恐々とした気持ちで見守るスロッターの前に現れた最初の使徒である。

 賛否の両論が渦巻く台であったが、それは取りも直さず打ち手による『五号機そのものの評価』であって、誤解を恐れずいうならば、リアルタイムでの感想はあまり芳しく無かった。筆者も単純に「出玉管理のボーナスが気持ち悪い」とか「チェリーが右リールにあるのが何か嫌」のような、あくまでも四号機の視点に立った上でかの台を評価していたように思う。のちに再評価が進み、五号機最初期の台としての役割は及第点どころかこれ以上ないほど果たしていたと広く認知されているのはご存知の通りであるが、兎にも角にも、当時は四号機を懐かしむ声があまりにも大きかったため、一種の不遇台の扱いを受けていた感は否めない。

 あれは『エヴァ』が導入されてからしばらく経った頃である。

 筆者の友人にN君という男が居た。イケメンである。2つほど年下だったので、当時まだ23歳とかその辺だろうか。大学を卒業したばかりで、介護の仕事をしていた。ホールでたまに出くわす筆者に良い具合に懐いてくれており、筆者もどうせ連るむならイケメンが良いので仲良くしていた。そんなN君だが、彼は導入当日から『エヴァ』を絶賛していた。パチスロを打ち始めてからの日が浅い分、五号機に感じる違和感もまた浅かったようである。

 筆者はまだホールに残されていた四号機たちを愛でるのに必死で、ホールが勢い込んで2シマも導入した『エヴァ』を盛り上げる為に時折開催していたシマ限定イベントの日を除いては、そこに立ち入ることもなかった。

 ある日の事、バイトが休みの日に筆者はホールへと向かった。入店し、さて何を打とうか……と周りを見渡すと、N君の姿があった。『エヴァ』である。

「今日もエヴァってるね」
「はい。エヴァってます」
「終わったら晩飯行こうか」
「はい。わかりました」

 そんな会話を交わして、筆者は残された四号機を打つ事にした。そろそろ強制撤去がなされそうな爆裂機たち。千円札をサンドにぶち込んで、残り僅かの回数になった逢瀬を慈しむように。これらの機種を打つことができるのは、人生でもう何度もないのだ。もうこの時間は戻ってこない。決して。ネバーだ。

 昼休憩を挟んで一度ATMに走り、最終的にはちょっと浮いた。マクリ勝ちである。これ以上打ったら絶対減って終わると思ったので、だいぶ早い時間だが交換を済ませて店の中に戻った。N君の様子を探るためだ。

 一階の奥。レイ、アスカ、シンジのバージョンをしっかりと揃えて2シマに渡って並べられた『エヴァ』コーナー。あまり客付きが良くない中、スピーカーから『残酷な天使のテーゼ』が虚しく響く一角に、N君は居た。心持ち顔が上気している。さては勝ってるな……と判断して近づくと、朝一から数えるほどしかボーナスしか当たっていなかった。

 データマシンにはマンハッタンを連想させる高層のビル群。現行のゲーム数も四桁に近づこうとしている。

「N君……。N君……?」
「あ、あしのさん!」
「なんで移動しないの……?」
「いや、見てくださいこれ!」

 向けられたパカパカ式のケータイ画面には電卓のアプリが立ち上げられ、そこには「6.7」と表示されていた。どうやらベル確率らしい。

『パチスロ新世紀エヴァンゲリオン』は設定によってメイン小役であるベルの確率に差があり、高設定をあぶり出すのにはそのカウントが欠かせない。筆者もイベントの時に打つ時は小役カウンターをカチカチしていたものだ。その時のN君の台のベル確率は『6.7』。試行回数は3000ゲームを切る程度。まだ全然暴れる試行回数であるが、とりあえず現在のところのベル率は設定5と6の中間である。

 N君が笑顔で言う。

「これ絶対6ですよ!」
「……違うだろ。帰ろう」
「いや、6です」
「そうか……。分かった。隣で打つ」
「お。打ちますか!」

 ベルを数えずにダラダラと打つ筆者。すぐにボーナスが来た。

 無言で打つ。飲まれる。投資する。ボーナスが来る。ボーナスが来る。飲まれる。

 二時間ほどダラダラと打って、10k円ほど負けた。筆者はN君に向き直る。

「ベル率どうなった?」
「7.1になりました……」
「ほらぁ……。帰ろう?」
「帰りましょうか……」

 その日、筆者は『エヴァ』のお陰で勝ち分を溶かし、マイナス収支で終わった。N君の収支がどうだったのかは怖くて訪ねていないが、筆者より遥かに負けてるのは間違いなかったので、晩御飯は筆者が奢ることになった。

 海鮮居酒屋でぷりぷりのアサリバターを食べていると、N君の携帯電話に着信があった。聞けば施設の入居者が亡くなったので手伝いに行かねばならないという事だった。

「うわぁ。どうしよう。ビール飲んじゃった……。行きたくない……」
「ダメでしょ。頑張んな。ほれ、会計しとくから」
「逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……」
「いいからそういうの。またホールで──」
「……ハイ」

 居酒屋の出口に消えていくN君の姿を眺めながら、筆者はなんとなくこう思った。

 とりあえず四号機なくなるまで四号機打とう……。と。

【あしの】都内在住、37歳。あるときはパチスロライター。ある時は会社員。年末くらいからライター一本で頑張ります。ブログ「5スロで稼げるか?」の中の人。

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