アニマルかつみの「ぱちパチ偉人伝」第2回 秋山宏一(元・パチスロ必勝ガイド攻略ライター)中編
店に入るなり『お前、雑誌に出てるプロだろ』と追い出され…
パチンコ必勝ガイド編集部のアルバイトを1週間でクビになるも、大先輩である石橋達也氏の推薦もあって、なんとかフリーの攻略ライターとして同誌にたずさわることとなった、若き日の秋山宏一氏。
前回も書いたとおり、当時(1989年末から90年代初頭)のパチンコはデジパチの保留玉連チャン機がブームになっていて、各攻略情報誌はこぞって連チャン発生メカニズムの解明や攻略法の開発にいそしんでいた。
パチンコ必勝ガイドのデジパチ攻略チームの一員となった秋山氏は、昼間はホールで、そして夜は編集部の攻略ルームで日々、研究に没頭することになるわけだが、そういった裏方的な仕事のかたわら、実戦企画などで徐々に誌面にも顔を出すようになる。
そうこうしているうちに1990年初頭、裏モノ連チャン機の台頭により高騰の一途にあったパチスロ人気に対応すべく、パチスロ必勝ガイドが刊行。そして秋山氏は、看板実戦企画「13時間デスマッチ」をはじめとする様々な企画に「秋山プロ」として登場。たちまち存在感を高めてゆく。
自分も含め必勝ガイドを愛読していた者からは、憧れの対象となった秋山氏。が、メーカーやホールの受け止め方は違った。なぜなら、大なり小なり自分たちの利益を害する情報を掲載する攻略メディアは、彼らにとっては敵対的な存在でしかなかったからだ。
秋山氏は、当時を次のように振り返る。
「読者の方から『いつも読んでます。頑張ってください』と声を掛けられると、悪い気はしなかったんですけどね。正直、ホールとかじゃマイナスのことの方が多かったですね」
いまでは考えられないことだが、当時の必勝ガイドは、携わっている人間が若くてイケイケだったこともあって、とにかく過激だった。実戦したホールを許可なく実名や写真入りで掲載することなど当たり前。大負けした店を「日本一のボッタクリ店」などとコキおろすことも、よくあった。
そういう、歯に衣着せぬ姿勢が読者の共感を呼んだわけだが、コキおろされた側はたまったもんじゃない。編集部には毎日のようにホールからクレームの電話が入り、つど編集部員は対応に追われた。
まぁでも、顔を出していない編集部員は、受話器越しに口先だけで「はい、すみません」と頭を下げれば済む話。顔を出している人間は、そうもいかない。秋山氏は続ける。
「店に入るなり、まだ何もしていないのに『お前、雑誌に出てるプロだろ。帰ってくれ、二度と来るな』って追い出されることなど、日常茶飯事でしたね。編集部に電話してきて、名指しで『秋山ってヤツいるだろ。今度、うちの店に来たらブッ○してやるからな』と恫喝されたことも、何度かありました」
攻略情報メディアに登場するライターたちが、すっかりアイドルやタレントのような存在となって久しい現代では考えられないことだが、先述のとおり「ホンモノの攻略法」を掲載していた当時の攻略情報雑誌はメーカーやホールにとっては敵以外の何者でもなく、そこに顔を出している者は攻撃の矢面に晒されたのである。
まぁ、一介の読者にすぎなかった当時の自分は、誌面での華々しい活躍の裏にそんな苦労話があることなど知る由もなく、ただただ必勝ガイドを我がバイブルとして崇め、秋山氏を初めとする誌面に登場する方々に常々、憧れの念を抱いていた。
そんな、ある意味で雲の上の存在だった秋山氏だが、願いが通じたのか、それとも縁があったのか。ひょんなことから接点を持つことができた。
プレゼント欲しさに毎月、読者アンケートハガキに色んなことを書いて、欠かさず送っていた。どうやらそれが、功を奏したらしい。
「うちの秋山が近々、大阪へ取材に行くのですが、なにぶん不慣れな土地なもんで、案内をしてくれませんか」
突然、そんな電話が必勝ガイド編集部から入ったのである。断る理由など、もちろんなかった。心の中で小躍りしつつ、まさかの大役を引き受けることにした。1990年の秋頃のことである。
数日後。バンド仲間にクルマを出してもらい、指定された場所に向かうと、いつも誌面で見るのと変わらぬラフな出で立ちの秋山氏が待っていた。
昨日まで雲の上の存在と思っていた人といざ会うとなれば少しは緊張するものだが、不思議とそれはなかった。いい意味で有名人らしいオーラが無く、「どこにでもいそうなフツーのお兄ちゃん」だったからだ。
その日は、大阪市内南部のロードサイドの店を何軒かめぐって、デジパチの新台のデータ取りの手伝いをした。頭の中で回転数を数えるのは大変だったが、「このデータが必勝ガイドに載るんだ」と思うと、ハンドルを握る手に力が入った。
夜は大阪在住のパチプロの方も合流して、ご飯を食べながらパチンコ・パチスロ談義に花を咲かせた。そこでも秋山氏はけして有名人ぶることなく、「同じパチンコ・パチスロ好きの若者」として始終、フランクに接してくれた。
結局、大阪での案内役はその日限りで、再び秋山氏は雲の上の存在になってしまったのだが、やはり氏とは見えない運命の糸で結ばれていたらしい。東京へ生活の拠点を移してからというもの、ちょくちょくパチンコ店で顔を合わせるようになったのである。
明けて1992年の、春まだ浅いある日の夕方のこと。夜のバイトが休みだったので、ふと思い立って隣駅の馴染みの店へ足を運んだ。すると、景品を手に店から出てきた秋山氏とバッタリ出くわした。
立ち話も何なので、近くの喫茶店に入ることにした。最初のうちは、互いの近況や話題の新機種などについて話をしていたが、やがて秋山氏から、予想だにしていなかった提案を持ちかけられる。
「そうそう。こんど、読者代表として13時間デスマッチに出てくださいよ」
突然のことで最初は戸惑った。が、軽い気持ちで引き受けることにした。まさか、その後の自らの人生を決定づけることとなることも知らずに…。(後編につづく)
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