パチンコ「計算したら1玉7円!? ありえない高レートの原因は、まさかの…」【アニマルかつみの銀玉回顧録 Vol.011】
【アニマルかつみの銀玉回顧録 Vol.011】
時は平成元年の秋頃だったか。例によって、バンド「R」の遠征ライヴで東京を訪れた時のことである。
東京での活動拠点としていたのは、JR目黒駅から目黒通りを山手通りに向かう下り坂、通称・権之助坂商店街の途中にある「鹿鳴館」というハコ。ジャパニーズ・ヘヴィメタルの聖地として、全国にその名を轟かせていた名門ライヴハウスである。
いつもの遠征なら、前日の夜までに東京入りして翌日の本番に備えるところ、その時はスケジュールの都合か何かで、夜通し機材車に揺られて当日入りの強行軍だった。
目黒に着いたのは朝の9時頃だったか。会場前のパーキングスペースにクルマを停めて近くの立ち食い蕎麦屋に入り、関西のものとはまるで異なる、どす黒く甘塩っぱい汁につかったうどんをすすって小腹を満たしたところで、搬入&サウンドチェックまでの時間を潰すべく、スタッフ1人をクルマに残してメンバーたちと反対車線側にあったパチンコ店へと向かった。
それぞれ好きな機種のコーナーに散っていき、自分は当時お気に入りだった平和のデジパチ『ブラボーエクシード』に腰を下ろした。
自分はこの店で打つのは初めてだったが、メンバーによるとレートは3.5円くらいで「出たらデカいで」とのこと。ふだん打っている大阪や兵庫は当時、組合の申し合わせで一律2.5円と決まっていたので、こういった高レートの店で打つ機会があるのも、東京遠征の楽しみのひとつだった。
高レートだけあってその分、クギは関西よりもキツめでデジタルの回りは芳しくなかったが、幸いにも低投資で持ち玉遊技可能なラッキーナンバーである7揃いを射止めることができた。
念のために説明しておくと、当時は九州など一部地方をのぞき、デジパチは基本的に大当り1回ごとに出玉を交換、店が指定した特定の数字(図柄)の場合のみ持ち玉遊技可能というのがお決まりのルールだった。
で、そんなラッキーナンバー制にも地方によって違いがあり、関西では「777・333から次回の777・333まで」、東京では「奇数揃いは次回まで継続、偶数揃いは交換」といった感じであった。
そんなわけで、持ち玉ができて悠々と打ち出したはいいが、速攻で偶数が揃い出玉交換と相成った。2連チャンしたのとほぼ同じくらいの出玉を得たのはいいが、せっかくの持ち玉遊技の時間があっけなく終わってしまい、なんだか物足りない気分になった。
さて、計数機から出てきたパンチングテープを手に景品カウンタへ向かうと、まばゆいばかりの金髪ショートヘアに派手派手しい柄のトレーナーを着た、背は高くはないが大柄な女性が、陳列されている景品を何やら物色していた。
当時、テレビのバラエティでよく見かけた、某有名女子プロレスラーだった。リングの上では極悪なヒールキャラを演じていたが、景品のぬいぐるみを手に取り「かわいい」と微笑むその横顔は、心優しそうなフツーの女の子といった感じであった。
なんとなく「ほっこり」しつつカウンタで特殊景品を受け取り、メンバーに教わった買取所へと向かう。目黒川に面した住宅街の一角に古ぼけたアパートがあり、その1階の角部屋の玄関扉に小窓はあった。
1つがいくらかもわからない、小さな香水の瓶が入った箱を十数個、小窓のトレイに乗せる。例によってしばらくすると、現金が乗せられたトレイが「すー」と戻ってくる。例によって相手の顔や姿はもとより手許さえも見えない、実に機械的なやり取りであった。
川縁の小道を戻りながら手にした現金を勘定すると、2万7千円あった。おかしい、どう考えても、多すぎる。
『ブラボーエクシード』はアタッカー開放時間が18.5秒とさほど長くはなく、(オマケチャッカーへの誘導クギの調整を)どう頑張っても1回の大当りでの出玉は2200発くらい。流したのが確か4100発くらいだったので、単純計算すると1玉7円近くになる。
買取所の人が誤って万札を1枚、よけいに出してしまったのだろうか。まぁ、ともかく、想定外の臨時収入を得られ、ホクホク顔になったことは言うまでもなかったが、その直後に事件は起こる。
懐にも気持ちにも余裕満々となり、時間にもまだまだ余裕があったので、店に戻って三共のハネモノ『ブロードウェイ』に腰を下ろし、会場入りの時刻を待つことした。するとほどなく、役職らしき白シャツ店員が例の某有名女子プロレスラーさんとともにやってきて、こんなことを告げてきた。
「あの、すみません。ひょっとして、こちらのお客様の景品を、いっしょに持って行かれたりしませんでしたか?」
思い返してみると、景品カウンタには係の女性店員が3人いて、ひとりがこちらの景品を、すぐ隣でもうひとりが彼女の景品を、それぞれに用意していた。そこに、別の客がやってきて、にわかにカウンタ内がバタついた。
同じタイミングで自分は、後ろを振り返り彼女の様子をチラチラと伺っていたので、そこで何があったかはわからない。ともかく自分は、「お待たせしました。はい、どうぞ」と渡された景品を手に店を出た。それまでのことである。
「…え、なんのことですか? 知りませんけど」
そう返すと素顔の某有名女子プロレスラーさんは、つぶらな目をしばしばさせながら「ですよね。ごめんなさいね」と、申し訳なさげに頭を掻いた。
「自分は悪くない。間違えて一緒くたに渡した店員が悪いんや」
心の中でそう思いつつも、後ろめたい気持ちと彼女に対する申し訳ない気持ちでいっぱいになり、スタッフの待つ機材車へと戻った。
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