パチンコ「1回の大当りで5000発!? 幻の西日本限定デジパチ『イリュージョン』を振り返る」【アニマルかつみの銀玉回顧録 Vol.016】
前にも書いたとおり、昭和の末期から平成3年の規則改正によって新基準機に入れ替わるまでホールに設置されていたデジパチは、俗に「2000発機」と称するもので、本来は1300発が出玉の上限であるところ、アタッカー左右下部のオマケチャッカーへ玉を誘導する釘調整にすることで、2000~3000発の出玉が可能となっていた。
いまでは完全にアウトな仕様だったわけだが、何事に関してもいまでは考えられないほどに、おおらかだった時代。一発台もそうだが、こういった脱法的なものが黙認され、ファンを熱狂させていたのである。
今回は、そんな古き良き時代の最中に突如として現れ、そして「あっ」という間に姿を消してしまった「幻の1台」について振り返ってみたい。
■幻の西日本限定デジパチ『イリュージョン』
平成元年の秋だったか、翌平成2年の春だったか。パチンコファンの間で、豊丸の『ドンスペシャルB』や三共(現SANKYO)の『フィーバーレクサス』シリーズなどの保留玉連チャン機と、それらに発覚した連チャン促進打法が話題と注目を集めていた頃のことだった。
夕方、大阪ミナミは心斎橋のスタジオで、バンドの練習を終えてメンバーと談笑していたところ、ローディー(手伝いのスタッフ)のH君がやってきて、いきなりこんなことを言い放った。
「えらいこっちゃでっせ。そこのA店に入った新しいセブン機で大当りしたら、1回でなんと5千発も出ましたで」
寝耳に水な話に居合わせたメンバーは皆、「そんなアホな」「壊れとるだけやろ」とH君をあざ笑った。もちろん、自分も同じ反応だった。しかし、H君は続けた。
「いや、ホンマですねんって。大当りしたら店員が箱を2つ持って飛んできて、大当り終わってからも5分くらい玉が出続けて…。他の台も、そんな感じでしたわ」
あまりに真剣に、そして熱心に話すもんだから、メンバーと連れ立って件のA店に様子を見に行くこととなった。
「あそこにある『イリュージョン』って台ですわ」
H君が指さした先には、雑誌でも見たこともないデジパチが並んでいて、大当り中の客たちの手元を見ると確かにドル箱が2つ置かれていて、上気した横顔で下皿から溢れる玉を掻きだしている。どうやらH君の話はウソじゃなかったようだ。
他のメンバーは早々に打ち慣れた一発台のシマへ消えていったが、自分はどうしてもこの正体不明の台を打ち、大当りさせたくなった。
「1回で5千発」という未知の出玉への興味と期待が…
10分ほどシマ端で待っていると、中ほどで打っていた中年のサラリーマンがカバンを手に席を立ったので、すかさず駆け寄り腰を下ろした。
「1回で5千発も出るんだから、確率もそれなりに低いんだろうな。いったい、いくら入れたら当るんだろうか…」
そんな正体不明なものに対する恐怖もあったが、「1回で5千発」という未知の出玉への興味と期待が、それを上回った。
手元に積み上げた500円玉の山が半分ほどになった頃だったか。3色ドットのデジタルにゾロ目が揃って大当りとなった。するとほどなく、H君の言うように店員がドル箱を2つ手にすっ飛んできて、「スタート」のフダを台上に指した。
「どうやって5千発も出るんだろう」と大当り中の玉の動きを興味津々観察していたのだが、理由はすぐにわかった。
まず、アタッカーの構造。なかなかアタッカーには入賞しないが、入賞すればほぼほぼV入賞(→ラウンド継続)する構造になっていて、全10ラウンドがほぼほぼ30秒フルオープン状態となる。
そして、いちばんの見所がオマケチャッカーへの誘導ゲージ。こぼれ玉が一切発生しないよう鉄壁のガードが構成されていて、アタッカー左右に流れた玉はさながら数珠のように連なり、漏れなくオマケへと誘われてゆくのである。
さて、大当りが終わった時点では、一般的な2千発機と同様にドル箱1つがいっぱいになっただけだったが、そこからが長かった。
「ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャラ…」
5分…いや、それ以上だったか。かなりの時間をかけて2箱目をいっぱいにしたところで、ようやくそれは止まった。シマ端の計数機に流すと、確かに5千+αの数字。「えらい台が出たもんだ」と感心しつつ、景品の束を手にA店をあとにした。
結局、大当り確率が不明というところが不安要素となり、『イリュージョン』を打ったのはこの日が最初で最後となったのだが、1ヶ月ほど経った頃だったか、パチンコ必勝ガイドに特集記事が掲載された。
メーカー発表の大当り確率は324分の1。思っていた以上の低確率である。さらに件の記事には、「若干の連チャン性を確認した」ということ、さらには「西日本限定発売」ということが記されていた。
ギャンブル性の高さが問題視され騒動に発展する前に、メーカー自らが手を引いたのだろう。結局、西日本の一部地域に限定的に導入された『イリュージョン』は早々に撤去され姿を消した。そして、その名のとおり「幻」となってしまったのである。
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