アニマルかつみの「ぱちパチ偉人伝」第3回 秋山宏一(元・パチスロ必勝ガイド攻略ライター)後編
『稼ぐ』ためにではなく『攻略』するためにパチスロを打つ
「こんど、読者代表として13時間デスマッチに出てくださいよ」
そんな秋山氏の誘いに、最初は戸惑いつつも「自分なんかでよければ、ぜひ」と、大役を引き受けることとなった。東京へ拠点を移して1年ちょっと経った、1992年の春まだ浅い日の夕暮れ時のことである。
自分事ではなく秋山氏が主役の話なので、詳細はまた別の機会に譲るとして…だ。結果的に、誘われるがままに読者代表として「13時間デスマッチ」に参戦し、「秋山プロ」と誌面でバトルを繰り広げたことで、その後の自分の人生が決定づけられた。
初回の冒頭でも触れたが、秋山氏との出会いがなかったら、いまの自分はなかった。パチスロライター・アニマルかつみは存在しなかったし、いまこうやってウェブを介して皆さんと対峙していることもなかっただろう。
ともかく、件の「13時間デスマッチ」への参戦をきっかけに自分は、時を同じくして隔月刊から月刊誌へと昇格したパチスロ必勝ガイドで、ライターとして仕事をさせてもらうことになった。
駆け出しだから当然だが最初の数ヶ月は仕事も少なく、深夜のパチンコ店の清掃のアルバイトと掛け持ちだった。が、夏が過ぎ秋を迎える頃になると仕事が急激に増えてきて、アルバイトをやめてライター業に専念することとなった。
打ち合わせなどで高田馬場の編集部へ頻繁に出入りするようになったのだが、どういうわけか秋山氏と顔を合わせる機会は、ほとんどなかった。お互いフリーランスなので、たまたまタイミングが合わないだけのことだろうが、「自分に仕事が回ってきている分、秋山さんの仕事が減ってしまっているのではないか」と思ってみたりもした。
そんな心配は、現実のものとなった。翌1993年夏、盟友だった編集のルーシー石橋氏とともに秋山氏は、パチスロ必勝ガイドを去った。主役がいなくなった13時間デスマッチは連載終了となり、そして「秋山プロ」は伝説となった。
本人からも、また編集部サイドからも詳しい経緯を聞かされることは無かったのだが、なんだか自分が追い出したような申し訳ない気持ちに包まれた。いずれにせよ、それから秋山氏と顔を合わせることはパッタリと無くなってしまった。
奇跡の再会を、しかもパチスロ必勝ガイドの誌面上で果たしたのは、それから12年も経った2005年秋。当時、パチスロ必勝ガイドMAXで連載していた対談企画「回胴人間模様」にゲストで出ていただくことになったのである。
失われた時間を取り戻すかのように、必勝ガイドを去ってからのことを色々と伺った。
「秋山プロ」を封印し、しばらく他の媒体で「名も無き攻略ライター」に従事していたこと。やがてゲームソフト制作の仕事を始めるも1年間タダ働き同然で準備に取り組んだプロジェクトが頓挫し、心労からメニエル病という難儀な病気にかかってしまったこと。そのリハビリを兼ねて進学塾の講師の仕事に就いたこと。その他、色々…。
ひととおり話を終え、先述した「気がかりだったこと」を打ち明けてみた。すると秋山氏は、笑いながら首を横に振った。
「考えすぎですよ。必勝ガイドを辞めたのは、もう散々やり尽くして、(必勝ガイドで)やりたいことが無くなったからですよ」
長い間、心の片隅でモヤモヤとしていたものが、「すーっ」と晴れたような気がした。
以来、秋山氏とは、数年置きにだが誌面企画などで顔を合わせる機会に恵まれた。つい先日も、パチスロ必勝ガイドMAXでドラゴン広石氏とコンビを組んでやってる連載「MAX 50’s(マックスフィフティーズ)」にゲストで出ていただいた。思えば8年ぶりの再会だった。
現在も秋山氏は、夜は進学塾の講師をつとめる一方、日中は時間が許す限りパチスロを打っているとのこと。そして、自身のパチスロに対するスタンスは、「攻略ライターをやっていた頃から、基本的には変わっていない」という。
「自分は常々、『どうやって稼ぐか』ではなく、『(この機種とは)どういう風に向き合っていくべきか』を考えながら、パチスロを打ち続けている」
十代半ばの頃から変わらず、パチスロを「稼ぐための道具」ではなく、「研究の対象」として接しているわけだ。
前にも書いたとおり、秋山氏が必勝ガイドに入った頃は、パチンコはデジパチ攻略全盛の時代。一方、パチスロの方もセット打法など破壊的な攻略法が次から次へと発覚した。
立場上、そういった情報は誰よりも早く入手することができる。つまりは、立場を利用して人知れず稼ぐことが出来たわけだ。が、秋山氏はそれをしなかった。
「だって、絶対に出せる、勝てるとわかってる方法で打ったところで、虚しいだけじゃないですか。私はね、そういう方法を『あーでもない、こーでもない』と考えながら模索することが、パチンコ・パチスロの醍醐味だと思ってるんですよ。不器用な生き方だと笑われるかも知れないですが」
人というのは、有名になって周りからチヤホヤ持てはやされれば、ついつい鼻が伸びてしまい、時に足下が見えなくなり、つまづいてしまうものである。が、秋山氏がそうならなかったのは、もとより本心としては人前に出てスポットライトを浴びることを良しとしなかった性格だったこと、そして先述のとおりピュアな気持ちでパチンコやパチスロに向き合ってきたからに他ならない。
「顔出しの仕事をやらなくなってだいぶ経ちますが、ほんといまは(気持ちが)楽ですよ。誰も私のことなんか知らないから、余計な気を遣わず、ただただ打つことにだけ集中できるんですから…」
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